『傲慢と善良』辻村深月　あらすじ/感想（ネタバレあり）

今回紹介する本は「傲慢と善良」辻村深月さんの作品です。本屋での文庫本ランキングで最近ずっと上位に位置するこの作品。実に興味が沸きました。タイトルから読み取れる「傲慢と善良」という一見反対にある言葉、どのように本の内容に絡んでくるのか必見です。

恋愛小説である側面、現代という結婚相手を自分で選ぶ婚活の現状を赤裸々に描いています。

文庫本

あらすじ（ネタバレなし）

主人公は２人の男女。西澤架（にしざわかける）３９歳と坂庭真美（さかにわまみ）３５歳。

架はずっと恋人を切らしたことがなかった。しかし前の彼女とは結婚に前向きになれずにいるまま、あきれた彼女に振られてしまう。その後婚活アプリで出会ったのがこの二人。2年間の交際を経て婚約もしていた。

しかし、ある日架が家に帰るといつもはいるはずの真美が家にいない。いつになっても帰ってこないため連絡をするが返答はない。架は真美が失踪したのだと考えます。というのも真美は過去にストーカー被害にあっていた。

架は過去のストーカーが今回の失踪に関係しているに違いないと思い自分で捜査を始める。真美の実家がある群馬県まで足を運び両親に話を聞いたり、真美の姉に会ったりする。しかし、そこからわかってきたのは真美の行方ではなく「真美のこれまでの人生」。母親に言われて始めた婚活、父親のコネで就職した県庁の臨時職員。ほかにもいろいろなエピソードが出てくる。いわゆる人の言いなりになってきた善良な暮らしぶり

真美が消えて3か月が経った時、架は女友達からいがいな事実を聞かされる。それは、、、、、

恋人に点数をつけてしまう（ネタバレ少しあり）

この本は「婚活」をテーマにしています。婚活となると自分の結婚相手にふさわしい人物を見定めること。多くの人間が相手を求めている一方で、大半の人間は相手が自分にふさわしくないと考えます。これは真美が群馬にいたときに利用していた結婚相談所の小野里のセリフです。

「無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は、“ピンとこない”と言います。――私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない」

傲慢と善良

「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自身につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」

傲慢と善良

架は群馬のこの結婚相談所を訪れて、架自信も感じていた「結婚相手にピンとくるかこないかの問題」に共感を受け、架は女友達に「真美ちゃんと結婚したい気持ちは何パーセント？」と尋ねられて「70パーセント」と答えていた自らの言動を思い出します。自分が結婚に踏み切れないのは相手に対して勝手に点数をつけて自分に見合わないと陰ながらに思っている傲慢さが原因だと悟ります。

表上では謙虚にしていても心の奥底では傲慢である。それが結婚の現状だと描写されています。

傲慢と善良

ここで紹介したいのがまたしても群馬の結婚相談所の老婦、小野里の言葉

「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、〝自分がない〟ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います」

傲慢と善良

自分のことかのようにひしひしと伝わってくるこの感じ。誰しもがもっている傲慢さと善良さ。自分にとっては善良でも他人にとっては傲慢にみえることがある。そんなことを気づかせてくれる本です。

私の感想

大学生の私が読むには少しハードな内容でした。

私には現在付き合っている彼女がいて、お互いに結婚も考えています。しかし実際にお互いに点数を付けたらどうなるのだろうか。

短い人生経験のなかでも思うことそれは「完璧な人間などいない」ことです。お互いが好きで付き合った恋人でも何かしら自分との相違はあるし寛容（悪くいえば我慢）にならないといけないところもでてくる。私も私で自分に100点をつけてほしいとは思わないし、つけたいとも思わない。つまり100点ではないところを許してもらいたいし許してあげたい。よくいう「不完全は美しい」です

多くのカップルは価値観の相違を理由に別れますが、恋愛の評論家がいうには「価値観の相違を合わせるのではなく価値観の相違を認めてあげる」ことが大事だとか。100点を求める、100点をつけることも傲慢なのかもしれないですね。

そして私の好きな言葉も紹介しておきます「世界に彼女より綺麗な人がたくさんいても、あなたを一番理解してくれるのは彼女だけ」美しい言葉です

現代の恋愛事情に確かな知見と思慮を提供してくれた良本でした。気になる方はこちらからご購入ください↓

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