今回紹介する本は「清く貧しく美しく」石田衣良さんの作品です
本屋で手に取って背表紙のあらすじを読んだときに、妙に読みたい欲が湧いてきて購入しました
読む前はミステリーとかサスペンスはワクワクが勝りますが、「この本は誠実な気持ちで読まないといけないんじゃないか」そんな気がして読みはじめました
文庫本
貧しい、けれど、幸せ
就活に失敗した主人公の「立原堅志」は、大学卒業後ずっと大手ネット通販の倉庫アルバイトとして働いていて、数年前に意気投合した恋人の保木日菜子とレインボーハイツという小さなアパートで暮らしている。そして日菜子は駅前のスーパーで働いている。二人の収入は決して多いものではないが、「お互いに褒めあって生きよう」という約束のもと慎ましい生活をしていた。
この2人、ほかの人がみたら将来的な不安や経済的な不安で埋め尽くされているのではないか?そう思うかもしれない。しかし、彼らは僕らが思っている以上に幸せな関係である。たとえ自分たちが社会的ヒエラルキーが低いところに居ようともお互いがお互いを必要としていて、お互いに褒めあって生きている姿はなにか考えさせられるものがある。
また、彼らが生活するレインボーハイツは比較的貧しい人が住んでいる。隣の部屋には堅志と同じ、警備アルバイトで生活するおじさんが、またその隣にはシングルマザーと子供が一緒に住んでいる。
物語の前半では隣人の医療費を負担したり、日菜子が着たいけれどお金がないから変えないドレスを堅志が買ってきてあげるという経済的な面を多く含んだ展開である。読者のなかには、そんな高価なドレスにお金を出すなんて思ったいないと思う人がいるかもしれないが、そんな気持ちを少しも感じさせない清々しさが美しく描写されている。
『清く貧しく美しく』:なにが一番やりたいのか
ある時、堅志にアルバイト先の大手ネット通信の正社員にならないかという話が来る。堅志が長年まちのぞんでいたものだ。そして、正社員になるための研修に堅志は行くことになる。しかし研修員の指導者は堅志の大学時代の恋人であった「佳央理」だった。佳央理は堅志が正社員になることを歓迎する。
しかし、同時に出版社に就職した友達から「書評を書かないか」という誘いもくる。堅志は昔からの夢だった「本に自分の名前が載ること」を叶えるために喜んで受け入れ、自分のやりたいことは正社員になることなのかこうして書評を書くことなのか葛藤に陥る。
ここらへんから一気に現実味を帯びた話になってきます。誰しもが一度は考えたことのあるやりたいことそうでないものの境目。お金のためにやりたいことを捨てるのか。人生を通してやりたいことを貫き通すのか。堅志は正社員と書評の狭間に立たされます。ここで一歩立ち止まって読者自身が自分の人生を振り返ることができるシーンでもあります。
『清く貧しく美しく』:豊かの根源とは?
一方の日菜子、彼女には行きつけの本屋があった。そこで出会ったのが「板垣」という男。彼は日菜子に行為を抱き、二人は何度かデートを重ねる。日菜子は堅志が正社員になるという話を聞いてから、自分に引け目を感じていた。もともと堅志は頭がよく私と同じ世界(清貧)にいる人ではない。彼が正社員になったらあっちの世界(お金に豊かな世界)に行くのだから私たちはもう一緒にいるべきではないと。日菜子は板垣の誘いは断り、堅志とも別れることを決めます。しかし、堅志が自分で選んだ選択に日菜子と堅志は交際をつづけることになります
ここでポイントになるのが「豊かさとはなんなのか」。お金なのか、ものなのか、それとも人との関係なのか。2人は選べば精神的にも経済的にも楽になれるであろう道を選ばなかった。選んだのはこれまでと同じ恋人と貧しい生活。堅志は大手企業の正社員という安定した道を選ばず、小説の書評という不安定な道を選んだ。バリキャリの佳央理ではなく日菜子を選んだ。これは彼がこの清く貧しく美しい生活の中で培った心の選択である。彼らが選んだのはお金や地位、名誉ではなくやりがいと別の意味での安定。今まで通りでいいそう思えたのはお互いがお互いを必要とし助け合ってきたからなのであろう。
『清く貧しく美しく』:読者自身に重ねる
この本を読んだ方はなにか思うことだろう。幸せとはなんなのか。大人になると必然的におかねや地位が物をいう。知らない間にそう言ったものばかりを追いかけている自分がいる。そう思わないだろうか。なぜ貧しいことがよくないことなのか。お金だけが豊かさの根源ではない。あなたをよく理解して愛してくれる人がいるだけでそれは幸せである。小説の中の男女2人の小さな決断だが読む価値があると思う。たとえ貧しくても清く美しくあるために、
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